ジュエリーワンダーラスト

エシカルジュエリーブランドの立ち上げ準備の記録と海外暮らしについて。

九龍城は存在しないと分かっているけれど

ついに来た、香港!

 

目的はただひとつ、GIAのラボクラスを取ること。

 

日本では宝石鑑別の資格とも訳される、アメリカのGIA GG(宝石学修了者)を取得すると宣言してから約1年半、ようやくここまで来た。

jewellerywanderlust.hatenablog.jp

 

自宅でできるオンラインコースを一通り終え、いよいよラボで実地のコースを受ける必要が出てきたのだ。世界中にキャンパスはあるものの、日本にはない。つまりラボクラスを受けるためには海外に出ないといけないのだ。あまり遠くには行きたくなかったのでアジアに絞り、選択肢は、台湾、香港、タイ、ムンバイの4択。そのうちタイと香港に狙いを定めて、スケジュールと使用言語の確認をした結果、香港に決めた。ずっとタイが良いと思っていたが、日程がネックで断念。トラと触れ合うのはまた今度。

 

初めての香港。しかし、ジャッキー・チェン、トニー・レオン、レスリー・チャン、ウォン・カーウァイ等々、香港映画を愛する私にはむしろ懐かしささえ感じる香港。

 

今回香港では、3つのコースを3週間にわたって一気に修了する。「ダイア→色石→鑑別」という順番だ。

 

授業開始前日にはGIAの場所を確かめにビルを訪れた。GIAがあるのは、日本でいえば銀座のような、高級ブティックが立ち並ぶ忙しいエリア。しかし行ったはいいものの、休日でビル自体が閉まっていた。いるのは警備員さんのみで、「GIAが入っているビルですか?」と英語で話しかけるも伝わらない。香港の公用語が英語だといった奴、誰だ。仕方なくつたない中国語で下見に来たことを伝えようと奮闘するも、「今日はすべて閉まってるから明日来い」と言われ、結局そのビルで合っているのかを確認できないまま帰路についた。詰めが甘い。

 

さて、緊張の初日。ひとまず前日訪れた建物で合っていた。受付で結構な額の授業料を支払い、教室へ入る。ちなみに支払いは現金不可。カードが何度か拒絶され、授業を受けることなくこのまま帰国かと本気でひやひやした。

 

無事に支払いを終えて教室に入ると、クラスメイトは私含めて14人だった。顕微鏡からその他必要な器具を一人一台割り当てられるため、一クラスの定員が最大15人なのだ。香港在住者が多いが、国籍としては中国人、フィリピン人、アメリカ人、イギリス人、韓国人など。私と同じく国外から参加している生徒もちらほらいる。

 

ちなみにクラス内は写真撮影厳禁で、スマートフォンは授業前にいちいち没収され、休憩時間と授業終了時に返却されるという仕組み。毎日スマホを忘れて帰宅しそうになる人が続出した。

 

「ダイアモンド」クラス

さて、まず最初のクラスは「ダイアモンド」。ダイアのクラスは5日間で、最終日には、ランダムに選んだダイア2石を決められた手順でチェックし、そこから得られた情報を既定のフォーマットに埋めていくというテストがある。初日だからオリエン的なものでゆるく始まるのかと思えばそんなこと全くなく、初日からルーペに顕微鏡を使ってどんどんダイアをみていく。

 

先生はおそらく30代の女性で、綺麗な英語と中国語(とおそらく広東語)を話す。話し方からして切れ者。とにかくてテキパキしているので、時間をゆっくりとって丁寧にというよりは、「分かった?ハイ次!」といった感じ。限られた期間でやるべきことがとにかく多いため、たまに「ここは軍隊か?」と錯覚するほどキビキビ動くことを要求される。

 

初日の午前中にも関わらず、すでに結構な疲労感を感じながら、初めてのお昼休憩に入る。食べるところが分からなかったので、ビル内のカフェテリアでザリガニのリゾットを食した。味はすこぶる良いが2,600円もする。日本だったら高級本格イタリアンのランチが食べられるぞ。早急に他に昼食を食べる場所を見つけようと決意する。

とっても美味しくてとっても高いリゾットセット

なんとか午後もこなし疲労困憊で終わった初日。結論から言うと、最初2日は帰り道はずっと頭痛に悩まされた。授業が17時半に終わるのだが、16時ぐらいになると頭痛が始まる。原因は簡単で、慣れない顕微鏡&ルーペを一日中使った作業による目の疲れ。「こんなん年取ったら無理じゃん」とクラスメイトみんなで話した。

 

授業中に使用するのはだいたい0.3カラット前後のダイアモンドなのだが、日に何度かは誰かが飛ばして懐中電灯を使った大捜索が行われる。大抵はイタリア人。

 

3日目も過ぎると、あとは最終日の試験に向けてひたすら演習モード。やれどもやれども完璧に回答するのは難しく、「これ合格するの無理じゃない…?」と日に日に疑念が濃くなっていく。しかしここで、試験の採点にはtolerence(許容範囲)が存在することが判明する。これで少しは肩の荷が下りた。それでも合格できる確証のないまま時間だけが過ぎていき、試験の前日は軽くパニックに。何せもしこれで落ちたら、私はまた香港なりタイなりに渡航しないといけないのだ。そんなお金はない。私と同じくこれだけのために香港に来ている韓国人のクラスメイトも、試験当日の朝プレッシャーで泣いたと言っていた(彼女は合格発表の時にも本当に泣いていた)。

 

そんなこんなで最後の試験をパスし、無事ダイアを修了することができた。

 

5日間のダイアのクラスが終わると、一旦週末だ。弾丸で姉が日本から遊びに来たので、香港ディズニーに行った。香港のディズニーランドは東京と比べるとかなりこじんまりとしていて、一番驚いたことはパレードがないこと。いや、あるにはあるのだが動かないのだ。道をふさいでキャラクターやキャストが躍るのだが、その場からは移動しない。パレードをすると採算が取れないのかな、と運営に思いをはせる。改めて東京は集客がすごい。

 

ショーは、なぜかポカホンタスとモアナとエルサが一堂に会するという、中々クセ強なステージだった。

なぜかこの3人の『Into the Unknown』のショー

ちなみにキャストは超歌うまだった。

 

「色石」クラス

さて、土日でリフレッシュして日本に帰国する姉を見送ると、月曜日からはまた「色石」のクラス。ダイアに比べると顕微鏡の出番が減り、目の負担が軽くなる。ダイアと色石のクラス、どっちが難しいかクラスでも意見が分かれたが、私個人的にはダイアの方が苦戦した。

 

色石は、練習に色とりどり大小ざまざまな色石が登場するので、ひたすら無色で小粒のダイアしか扱えないダイアモンドのクラスより格段に楽しいのだ。ダイアと違ってピンセットでつかみ損ねて飛ばしてしまう事件もそんなに発生しなかった。主な要因は、色石の方がカラット数が大きかったからだが、ダイア飛ばしの常習犯のイタリア人がいなくなったから、というのもある。

 

色石のクラスの最終試験も、ランダムに選んだ2石を器具を使ってチェックしていき、決められたフォーマットに必要な情報を埋めていくというものだった。ダイアにはなく色石にあるもの、それは当然「色」だ。この「色」によってテストの難易度も大きく変わってくるが、どの石を引くかは完全に運任せ。私は「ピンクの石は嫌だ、ピンクの石は嫌だ」と、組み分け帽子を被ったハリー並みに念じながら石を引いた。結果無事にピンクは避けられて代わりに緑とオレンジのガーネットを引き当てた。そのおかげかは分からないが、色石のクラスも無事に合格できた

 

ちなみに初日に直面したお昼ご飯問題は、「最寄り駅でおにぎりを買い、近くの素敵な教会の広場で食べる」ことで早々に解決した。相変わらず目が死ぬのでお昼は外で風にあたるのが良い気分転換となった。

 

都会のオアシス
「宝石鑑別」のクラス

いよいよ香港滞在も最終週。今回一番の難関、「宝石鑑別」のクラスに移る。がしかし、ここで緊急事態が発生。台風だ。先月も来たばかりだというのに、またもや大きめの台風が香港を直撃し、月曜日から始まるはずだった授業がキャンセルに。それにより授業が1日後ろにずれ、授業最終日と私の帰国日が被った。格安航空券だったため、帰路の航空券は変更不可。宿泊費をケチって一日の猶予もなく航空券を取ったのがあだとなった。しかし背に腹は代えられない。追加で数万円を払い帰国日を後ろにずらす。本当に無限にお金がなくなっていく。

 

心配していた宝石鑑別の授業だが、結論から言うと私はこれが一番得意だった。最終テストでは、まさかのクラス最高得点を取ったほどだ。これまでのダイア、色石は実はクラス全員合格だったのだが、なんと鑑別だけは合格率が60%程度だった。といっても5回まで受けられるので、最初落ちてしまった人も2回目で合格したときいた。

 

総括

3つのラボクラスを受けてみての総括は、「いや、めっちゃ大変じゃん」だ。クラスを始める前、家族にも「香港まで行って合格できなかったらどうなるの」と不安そうに聞かれたことがあったが、笑って「それはあり得ない!大丈夫!」と大口を叩いていた。正直、「まじめに授業を受けて勉強すればみんな受かるだろう」と考えて参加したのだ。しかし実際にやってみて、「え…これ、まさか私落ちる?」と何度思ったことか。夫にも毎晩電話で「ごめん、今回ほんとに落ちるかも」と泣き言を言っていた。特に通学コースではなくオンラインコースの生徒は、ラボクラスを数日というかなり限られた時間で授業と最終テストを受けなくてはいけないので、「授業に集中し、毎日予習復習をするぐらいの努力ができる」が大前提になる。

 

授業でやることは難しいしかし救いだったのは、試験の採点が中々甘いようだ、ということ。ようだ、と言ったのは配点は非公開で実際にどれくらい甘いのかは分からないからだ。普通に授業をまじめに受ける必要はあるし、帰ってからもテキストを見返して自分なりにメモをまとめるぐらいの努力は必要だけど、裏を返すとそれぐらいのことができる人は受かる。

 

このラボクラスが終わった後、最後にもうひとつオンラインコースを修了して、ようやくG.Gが取れるわけだが、ここで問題が発覚する。この最後のコース「オンラインコース」と銘打っているくせに、顕微鏡など鑑別器具一式が必要だというのだ!なんだそれ!!GIA、先にHPで説明しておけ!!ウェブサイトに記載さえれていない出費が後出しで出てくる。

 

もし新品で器具一式をそろえるとなると100万円以上かかることになる。GIAの学校がある場所に住んでいる場合は、ワークルームというところに通って器具を使わせてもらう、という選択肢もある。ただしそれでもこのワークルームの1日の使用量が日本円で約2,000円、コース終了までの平均期間が6~8週間と言われているから、10万円程度の費用がかかることになる。約40万円の授業料は別で、だ!!あり得ん。

 

このことを知らなかったクラスメイトも多数いるので、GIAにはフィードバックするつもりだ。

 

ということで一番現実的な選択肢は、中古で機材をそろえるということになりそうだ。それでも数十万円の出費は覚悟しないといけないけれど…。はあ、お金がかかる(今回お金のことばかり言っていて申し訳ない)。

 

私は言葉の問題が無く、もともと海外あちこち行くことに抵抗がない人間だったからひょいと始められたが、普通にイバラの道だな、これ。もしも私のように日本からオンラインでGGに挑戦しようとしている人がいたら私のように「まあ出来るでしょ」みたいな気持ちで始めないように。まあ出来るとは思うんだけど。